マルチリンガル医師のよもやま話

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『ワクチンを打つほど感染する』説の検証

ワクチンを打てば打つほど感染しやすい

ネット上ではこのような意見もありますし、実際たまーにそう言うてくる患者さんもいます。

その時に必ず出してくるのが、南アフリカの話です。ワクチン接種率が圧倒的に低い(30%以下)のにオミクロン株はほぼ収束、かたや先進国は感染爆発。とのこと

今回は、これについて少し詳しく見ていきましょう。

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南アフリカ・ヨハネスブルク

南アフリカについて

恒例ですが、まず南アフリカについて知っておきましょう。

まず、首都はプレトリアで、最大の都市はヨハネスブルク、ともにハウテン州の中にあります。この名前は後で出てくるので頭の片隅にでも。。

人口は日本の半分くらいで、アフリカ最大の経済大国です。たしかに、写真見ると意外と都会!

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南アフリカについて

人口の8割が黒人なのに、1994年までは白人によるアパルトヘイト政策が取られていました。また、医療面ではAIDSの蔓延国として有名で、平均寿命は64.38歳です。

ここで、人口ピラミッド*1を日本と南アフリカで比べてみましょう。

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人口ピラミッド 日本vs南アフリカ

高齢化社会の日本と比べ、圧倒的に若い世代が多い南アフリカ。もちろん医療水準や衛生状態による寿命の違いも関係しています。

南アフリカでは人口の9割が60歳未満です!これも重要ですから押さえておいてください。

南アフリカと新型コロナ

さて、では南アフリカでの新型コロナの状況を見てみましょう。

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南アフリカのコロナ状況 Reutersより

グラフを見ると、現在はオミクロン株の感染も落ち着いていますね。

しかし、このグラフを見ると他国と比べて気になるところが2か所あります。

まずは、オミクロン株の波の頂点が低いことです。感染力の高いオミクロン株では、多くの国でデルタ株の波よりもうんと高くなっています。

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英・独ではオミクロン株で高い波

例えば、イギリスやドイツでは、オミクロン株での波は過去の波とは比較にならないくらい高いですね。

そして、もう1つ気になるのが、死者です。イギリスやドイツでは、オミクロン株による感染者数の割に死者数が他の波よりうんと低いのですが、南アフリカでは違います。

つまり、南アフリカではオミクロン株でも致死率が高いのです。

南アフリカで致死率が高い

さきほどやったように人口の9割が60歳未満で重症化リスクが低い人たちなわけです。それなのに南アフリカでは致死率が非常に高いのです。

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南アフリカの致死率は高い

オミクロン株は世界的にも重症化しにくく、『かぜに近い』とまで言われますね。南アフリカでオミクロン株の致死率は2.7%*2と報告されています。

これは、世界的に見てかなり高いです。イギリスでは0.2%*3、カナダで0.03%という報告*4があります。

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オミクロン株の致死率

この差で考えられる理由は、当然ワクチン接種率の違いはまず間違いなくあるでしょう。他にも、南アフリカにAIDS患者が多いことも関係はあるでしょう。

重症化しにくいオミクロン株の時でも致死率が高いこと、これについては、他に計算の問題もありそうです。

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陽性者数はわかってないだけ

つまり、弱毒ゆえに検査を受けていない可能性です。軽症の人が検査をしなければ『陽性者数』は低くなり、結果として致死率が高くなります。

死にまくっている

実際、南アフリカではたくさん亡くなっています。3月31日の報道*5によると、コロナ死者数の総計が10万人を超えました。

日本の人口の半分ですから、日本でいうと20万人の死者数ですね。日本はまだ3万人超えていません。

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南アは超過死亡も圧倒的に多い

そして、新型コロナウイルス感染症による直接的及び間接的な影響での死者を表す『超過死亡』を見ても南アフリカはダントツですね。超過死亡は30万人にのぼると報道*6されています。

これからも出されている数字以上にかなりの陽性者がいることがわかります。

なぜ収束状態?

軽症者が検査しないとしても、波は明らかに下がっています。つまり、収束傾向なのは間違いありません。

なぜ接種率30%未満の南アフリカでオミクロン株が収束に近いのでしょうか?ま、答えはもう出てますが、一応見ときましょう。笑

これについて論文*7にされておりますので、そこの内容を見るとすぐわかります。

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感染大爆発で集団免疫だった

首都のプレトリアや、ヨハネスブルクを擁するハウテン州、覚えてますか?

そこで行われた抗体検査の推移を調べると、オミクロン株による第4波が始まる時点で、抗体陽性率がなんと73.1%もあったのです。ワクチン接種率が20%ほどだったので、それ以外の人たちは感染により抗体を持っていたわけです。

つまり、その後の急峻な波の後、日本の第5波のときのように一時的な集団免疫に達したのだと考えられます。

さいごに

いかがでしたか?

南アフリカを例にして、ワクチン接種率が低い国の方が感染が落ち着いているから、「ワクチン打てば打つほど感染する」という理論はいつも通り薄っぺらいですね。(笑)

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南アフリカでは感染爆発

実際は、”感染者数”には出てこない莫大な人数が既に感染していたことで抗体をもっており、一時的な集団免疫に達し、収束に近い状態となっています。

抗体価は時間とともに下がります。・・・ということは。。。

そうです、実は、今増えだしているのです。PCR検査の陽性率がジワジワと上がってきており、警戒していると報道*8されています。

では、また(^^♪