マルチリンガル医師のよもやま話

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セウォル号沈没事故は人災の塊

知床の遊覧船沈没に関するニュースが報道されています。

通常は起こらないような事故が起きるのは裏に複数の要因が積み重なっています。タイタニック号もそうでした。

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今回は、8年前の4月に沈没したくさんの子供たちの命が奪われたある船の事件について学んでみましょう。

ハインリッヒの法則

ハインリッヒの法則というものがありまして、1つの重大事故には29の軽微な事故があり、その背景には300のヒヤリ・ハットがあるというものです。

医療現場では非常になじみ深い言葉で。

ハインリッヒの法則

ヒヤリ・ハットは日本語で、「おっと、あぶねー」っていうようなもう少しで何かしら事故につながりかねない状況をいいます。

こういった事例があるとそれを今後意識することで、大きな事故を未然に防ごうという考えです。

重大事故は調べていくと、このような小さな危険が見過ごされていったことで起こるべくして起こったものだと考えられます。

セウォル号沈没

2014年4月15日夜、韓国・仁川港を出発し済州島に向かっていたセウォル号には修学旅行中の高校2年生325人を含む計476人が乗船していました。

その日は濃霧で、出発が2時間ほど遅れていました。済州島に向かい南へ進むセウォル号は翌朝9時前に突然右に傾き始め、間もなく転覆しました。

セウォル号沈没 時系列

最初に救難要請を出したのは高校生*1でした。

そしてその1時間後、船内からの通信はすべて途絶えました

さらにその1時間後、マスコミ各社が、高校生全員の救助を報道しました。安堵が広がるなかで、それは誤報*2ったとわかりました。メディアが真偽不明の情報を裏を取らずに流し、他社も追随したのです。

マスコミの大誤報

最終的には299人の死者を出した大惨事となりました。

実は日本の船

ここでセウォル号について少し学びましょう。

驚くかもしれませんが、実はセウォル号は日本製なのです。元々は1994年から2012年まで鹿児島と沖縄を結ぶフェリー『なみのうえ』として活躍していました。

元々は日本で使われた船

引退後、鉄くず扱い8億円で韓国の海運会社に売却*3され、その後、大幅な改造客室が増設されました。

こうして2013年から仁川〜済州島の航路に就きました。

改造によるバランス低下

これが重要です。つまり元々設計されて作られた以上に客室を増やしたり、たくさん貨物を積むように無謀な改造をし、重心が高くなったのです。

最大の要因

セウォル号沈没の最大の要因は2つ考えられています。過積載バラスト水でした。

常態化した過積載

改造後の最大積載量は987tでしたが、事故時の積載量は3608tとありえないくらいの過積載*4でした。のちの調査で過積載は常態化し、139回に及んでいたことがわかりました。

バラスト水について

貨物船やコンテナ船は最大の積載の状態で安定して運航できるように作られています。そうすると、荷物を降ろした後軽くなると不安定になるのです。

それを防ぐために大量の水を入れて”おもし”をするのですが、それをバラスト水といいます。

過積載を隠すためにバラスト水を減らした

セウォル号が安定して運航するには2000tのバラスト水が必要とされますが、事故当時はその1/4しか入れられていませんでした。理由は過積載するためにバラスト水を捨てた*5のです。

経験のない乗組員

多数の死者が出た原因で、乗組員の要素*6はかなり大きいです。

乗客を見捨てて真っ先に避難

イ・ジュンソク船長は、乗客の避難誘導をせず、船員とバレないように下着姿で真っ先に救助されました。避難誘導指示については、放送機の故障があったと嘘をついたのです。

乗客の避難誘導をしなかった

この船長をはじめほとんどの乗組員は契約社員で、元々は別の船長が予定していたが急遽変わっていた*7こともわかっています。また、副船長らも前日に入社したばかりでした。

また操船していたのは新人の三等航海士で、その航路は初めて*8でした。この緊急事態で船長や一等航海士は何をしていたのでしょうか。

むちゃくちゃすぎる

もう、むちゃくちゃです。

この海運会社は過去にも複数の大きな海難事故を起こしている*9こともわかっています。

使えない救命ボート

船内では「船内待機を」という自動アナウンスが繰り返されました。その指示に従い、逃げられず命を落とした子供たちが多数います。

なぜ、船長や船員は自分たちだけ逃げて避難誘導を行わなかったのでしょうか?

救命いかだは使用不可だった

実は、備え付けの救命ボートは鎖がさび付いており使用不可だったのです。ところが、事故の2か月前の安全検査は『良好』となっていたのです。なぜでしょう?

そうです、賄賂です。

賄賂で不正改造、安全軽視

そもそも認可基準を満たしていなかったものを賄賂で強行突破し、過積載を繰り返し、整備不良も賄賂でもみ消し。。。

故障も修理せずに運航

しかも、運航そのものにかかわる機器にも多数の故障が判明していましたが、修理せずに運航していた*10こともわかりました。

さいごに

いかがでしたか?

多くの高校生の命を奪った忌々しい事故は、たくさんのミスの積み重ねが原因で起こりました。

中でも、海運会社のずさんな安全対策と、賄賂・癒着による点検省略などが背景に大きくありました。

また、船員らは乗客を残して自らのみが助かろうと、避難指示を出しませんでした。

事故の後、日本側も海上保安庁の救助支援を提案しましたが、韓国側より不要と返事がありました。国としてもメンツを優先したのです。

びっくりするくらい全てよくない選択肢を選んでいった感じですね。

 

では、また(^.^)ノ