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南海トラフ地震は2035年発生?!

「南海トラフ地震が30年以内に70〜80%の確率で発生する」

ニュースや防災ポスターで日常的に目にするこの数字。

様々な憶測がありますが、今回はこの辺深堀りして学んでみましょう。

1.南海トラフ地震

まず一番重要な名称だけ確認しておきましょう。

昔は、東海地震や南海地震と呼ばれていました。

これは地震が起きる場所で、東海南海東南海と3つに分けて呼ばれていました。

時に、直後または数年後に連動地震が起こることもわかり、これらを一つのまとまりとして捉えた方がいいのではないか?と言うことで、南海トラフ地震とまとめて呼ぶこととなりました。

これは東日本大震災(2011)が想定を上回る規模の連動型地震だったことの教訓が大きいです。

2. 「100〜150年周期」

南海トラフ地震の発生周期が100~150年ということをよく耳にしますね。

ここで疑問は、「江戸時代やそれ以前の古い記録から、現代のような『震度』や『マグニチュード』なんて本当に正確にわかるのか?」という点です。

当時の家屋は現代と構造も強度も異なりますし、海岸線や地形も違います。

被害の記述をそのまま今の基準に当てはめることは不可能です。

地震学では、以下のような複数のデータによる検証を行っています。

古文書からの検証方法

このように1つの記録を元に大規模な南海大地震が起きた!と言っているわけではなく、複数の地域の記録などを元にある程度の推定をしているのです。

そうした情報を寄せ集めると、100~150年の周期で南海トラフで大規模な地震が起きているという結論に至っています。

3. 「30年以内に60〜90%」

専門家の間でも特に議論を呼んでいるのが、「30年以内に60〜90%」という確率の計算方法です。

実は、日本政府(地震調査委員会)は、他の地震と南海トラフ地震で計算モデルを使い分けているのです。

2つの計算モデル

もし、南海トラフ地震を他と同じ「通常モデル」で計算した場合、30年以内の発生確率は「20%程度」まで下がると試算されています。

一般的に、周期性のわからない or 周期性のなさそうな断層については、ポアソン過程で計算します。

逆に周期性が認められている地震については、ポアソン過程では過小評価されるので、時間予測モデルを使うほうがいいというものです。

100~150年周期で起きている

ただ、この時間予測モデルが他の地震では使われていないのです。

南海トラフ地震だけが昔からの情報が多く、さらに高知県にある室津港隆起量のデータがあること、強い周期性(100~150年)が見られることからこの時間予測モデルが使われてきました。

しかし、多くの学者が、「南海トラフ地震だけにこの予測モデルを適用するのは恣意的で科学的でない」と反発したのです。

4.提唱者の軌道修正

時間予測モデルの提唱者である東大名誉教授の島崎邦彦氏が、2025年学術集会(学会)で異例の表明を行いました。

南海トラフ地震の時間予測モデルの計算では、『室津港の隆起』が唯一の根拠だったのですが、実はこれに関する古文書を再調査したところ、「解釈の間違い」があったようです。

地震の度に隆起したとされる室津港 ~室戸ユネスコ世界ジオパークHPより引用~

地震による隆起ではなく、江戸時代の人工的な掘削だったことも工事の記録から見つかったのです。

そうしたことから、島崎氏は学会で、『(室津港の隆起を修正して)再計算したら南海トラフ地震は2030年頃起こる。数年過ぎても起こらなければ、時間予測モデルが誤りだということだ』と表明しました。

また最近、テレビや書籍で話題となっているのが、京都大学名誉教授・鎌田浩毅氏が唱える

「2035年に南海トラフ地震が必ず起きる」という説です。

今はメディアで南海トラフ地震の解説をしますが、彼の説も実は、島崎氏の提唱する時間予測モデルによるものなのです。

5.周期性の疑問

ここでもう一度、過去の南海トラフ地震を見てみましょう。

確かに100~150年周期で起きているように見えます。

南海トラフ地震の周期

この中で1605年に起きた慶長地震はちょっと特殊なのです。

揺れの記録がかなり弱いのに、津波の被害だけは広範囲に及んでおり、他の典型的な南海トラフ地震とは性格が異なるのです。

そのため、慶長地震を南海地震としてカウントしないパターンもあり、そうすると、明応地震(1498)から史上最大規模と言われる宝永地震(1707)までは209年空いています。

さらに言うと、実は、明応地震(1498)も南海トラフ沿いで起きた地震だが東海地震だけだった?という研究者もいます。

広範囲で見ると発生確率が上がる

こうなると、東南海連動したいわゆる”南海トラフ地震”として見ると、正平地震(1361)から宝永地震(1707)まで346年空いたという、周期が崩れる見解もあるのです。

もしその周期性の前提が崩れると、時間予測モデルは意味を成しません。

6. 海外の研究機関

日本の外に目を向けると、世界の地震学者たちは南海トラフ地震をどのように評価しているのでしょうか?

海外の研究機関

結論から言うと、「巨大地震のリスクが高い領域であることは100%同意するが、日本政府の確率発表や情報の出し方には冷ややか」というスタンスです。

7. 「南海地震起きません」

インターネット上で時折話題になる熱移送説は地質学者の角田史雄氏らが提唱しています。

「プレートの沈み込みではなく、地球深部からの熱エネルギーが移動し、岩盤が熱膨張して割れることで地震が起きる」という独自の説です。

つまりプレートの歪みという概念を否定するため、『南海トラフ地震は起こらない』という主張となります。聞いている我々からすると嬉しいし、信じたい説ですね。

ただし、残念ながら、科学的には全く信頼されていない説です。

現代の科学技術でGPS衛星や海底観測網により「プレートが実際に年に数センチ動いており、境界付近で歪みが溜まっている様子」がリアルタイムの物理データとして直接測定されています。つまり、熱移送説は根底が誤っています

8.政府の発表

2001年、政府の地震調査委員会が南海トラフ地域で地震の長期評価を初めて行いました。

このときの長期評価部会長が東大の島崎邦彦氏でした。1980年代に時間予測モデルを提唱し、世界的に評価されていました。

室津港の隆起の客観的データを元に、説明を受けた政府は『最も科学的』であるとして時間予測モデルを採用し30年以内に40~50%と示しました。

日本政府は『時間予測モデル』採用

その後も定期的に30年以内発生リスクは発表され、2013年は『30年以内60〜70%』、その後、年々数字は上昇し2025年『80%』と発表しました。

しかし、多くの学者からの批判などもずっと受けており、室津港の隆起の根拠も危うくなってきたことを背景に、2025年9月からは『60〜90%程度』としながらも、別の統計モデル『※20〜50%』も併記するようになりました。

海外の研究者らも日本政府の発表する数字には疑問があり、国内でも以前から異論を唱えるのに政府はなぜこの高い確率を示し続けてきたのでしょうか?

9.政府の真の思惑

実は2013年や2018年の検討会議の議事録を見ると、多くの地震学者が政府の重用する時間予測モデルについて『非科学的だ』と反発していました。

つまり、政府もあの数字がかなり盛られていることを知っていたのです。

しかし、下方修正するとせっかく高まっていた国民の防災意識を損ねてしまう懸が大いにありました。

またこれまで巨額の防災対策を進めてき、特別措置法まで制定したのにその根拠が失われてしまうとなると、政府の顔も丸つぶれです。それを避けたかった。

また、防災予算という既得権益ができたので、それを失いたくない人たちもいます。

避難ビルの建設、耐震化工事、被害が大きいと予想される地域のインフラ再整備にお金を使えると、地元議員は住民に「大きな顔」をできます。今後の選挙も堅いでしょう。

また、危機感が煽られれば、地震研究への政府予算などもしっかりつくのです。

だからこそ、反対していた学者らも、納得はしていなくとも政府の面目を潰さないように動いたと言われています。

10.数字だけを見るな

2024年1月に起きた能登半島地震を見てみましょう。2010年代から海底活断層の存在や津波リスクについて想定されていました。

政府の地震調査本部が示していた数字は「30年以内発生は0.1〜3%未満」でした。

2026年7月に起きた熊本地震はどうでしょうか?2016年にも熊本地震がありました。このとき、日奈久断層帯の南側はまだ地震を起こしうると言われました。

この断層帯の地震発生確率は『今後30年以内に0〜6%』とされていました。

まじで当てにならないですね。

ただしここで確認しておきたいのでは、能登や熊本は『活断層型地震』で、通常の間隔が数千年なので、3%以上の確率でSランク(いつ起きてもおかしくない状態)に認定されます。

一方、南海トラフ地震『海溝型地震』で周期が数十年から数百年と短いのでどうしても30年以内の発生確率は高く表示されるという違いがあります。

つまり、数字を見るときも、その背景も知らないと何も意味のないものとなってしまうのです。

まとめ:「本当の確率」とどう向き合うべきか?

ここまで見て来たとおり、「70〜80%」という数字には、東日本大震災での『想定外』からきた教訓から想定を大きくしておきたいという政府の意図があります。

そして、南海トラフ地震だけにあてはめられた時間予測モデルが本当に適しているのかと言うところはかなり議論があります。

科学的に厳密かつ世界標準で評価すれば、「20〜50%程度」と見るのが冷徹な捉え方でしょう。

しかしながら、実際、南海トラフ周囲では過去に大きな地震が100~200年間隔で起きていることは記録からたしかです。

明日起きるかもしれないし、50年後かもしれない。数字だけに惑わされず、防災の意識を持つことが重要と言うことですね。

 

では、また(^^♪