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ファクターXついに解明?!

「日本人はコロナにかかりにくい」とか「重症化しにくい」という言説があり、日本人には何かしらの”ファクターX”があるからだと考えられてきました。

文化の違いか、遺伝子の違いか、はたまたBCG接種か。

ちなみにBCGはどうやら関係なさそうです↓

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今回は、先日Nature immunologyに発表されたオーストラリアの研究*1から学びましょう。

原住民と重症化

まず、新型コロナウイルス感染症で重症化しやすい人というのは、高血圧や糖尿病などの基礎疾患がある人というのはもう皆さんご存じの通り。

その他にも、実は原住民は重症化リスクが高いということも知られています。

原住民は重症化しやすい

コロナ禍初期のころに、アメリカやオーストラリアの原住民の被害が大きいことが報告*2*3されていました。

原住民とか先住民と呼ばれる人たちは世界に4億7600万人(世界人口の6%)いると言われています。

原住民は人口の6%

貧困や慢性疾患、AIDS・結核などの感染症などの影響をモロに受け、一般的に平均寿命は20年ほど短いです。

こういったことから、コロナ禍で原住民らが被害が大きいのは想定されていました。

しかし、免疫学的に見て、原住民らがコロナに対する反応が実際に弱いのかについては調べられていませんでした。

ワクチンでの免疫

オーストラリアは当初、島国の特性を生かし、水際対策を徹底、感染者数はかなり少なく抑えていましたね。

感染者が少ない状況では、原住民と非原住民の感染者で時期を合わせて、信頼性の高い比較をするのは難しいです。

そこで、ワクチンによる免疫反応を見ることにしました。

ワクチンの免疫応答を比較

原住民と非原住民とを分けてファイザーワクチンを接種し、免疫反応を比較しました。

今回の研究の参加者は、コロナ未感染の97人で、うち58人が原住民、39人は非原住民です。両群とも年齢の中央値なども揃えてあり、ともに44歳です。

研究参加者の内訳

研究期間中のコロナの変異株はデルタとオミクロンが含まれています。

ワクチンは初期2回接種と、6カ月以上開けての3回目の接種までしており、抗体価やB細胞・T細胞の活性化や細胞内サイトカインの分泌などを比較しています。

抗体価の違い

2回目接種からしばらくして、抗体価がピークに達するタイミングで比較すると、原住民群でわずかに低いだけですが、統計処理をすると有意差がでました。

抗体価にわずかな差

この理由に関しては、抗体陽性化率を見るとわかります。

2回目接種後の抗体陽性化率は、非原住民群では100%ですが、原住民群では92%と、抗体ができていない or 低すぎる人たちが入っているということです。

原住民群では抗体陽性化が少し低い

B型肝炎のワクチンでもそうなのですが、3回打ってもなかなか抗体がしっかりつかない人がたまにいます。実際の感染では、ガッツリ陽性化しますが、ワクチンはあくまで”感染のトレーニング”ですから仕方ありません。

原住民にだけ見られる

年齢も揃えて比較しているのに、原住民群にだけ見られる傾向がありました。

原住民にだけ見られる傾向

それは年齢が上がれば抗体価が低くなりやすく、BMIが高くなれば抗体価が高くなりやすいという傾向です。非原住民ではこの傾向は見られませんでした。

しかし、なぜ原住民だけに見られるのでしょうか?

こういったときに、絶対考えなければならないのは基礎疾患です。

基礎疾患の有無

実は、原住民群では糖尿病や腎疾患などの基礎疾患を持つ人の割合が36%、一方で非原住民の側は0%でした。

では、基礎疾患の有無が、抗体形成や免疫反応に影響するのかを確認してみようとなります。

基礎疾患との関係

そこで、第二段階として、非原住民側の基礎疾患持ちを調べなおします。

非原住民の基礎疾患持ちで調査

全員が糖尿病や腎疾患や炎症性腸疾患の基礎疾患をもつ69人を新たに集めて調査しました。

すると、面白いことがわかりました。

非原住民群で、基礎疾患持ちの人たちは、どちらの群の基礎疾患を持たない人たちよりも抗体価が低かったのです。

基礎疾患が関係しているか

抗体価以外の様々な免疫指標も比較されていますが、ここでは割愛します。

まとめると、原住民の方がコロナ罹患率・致死率が高いというのは、原住民がそもそも基礎疾患の有病率が高いことにより、抗体ができにくかったり、その他の免疫反応が弱いことが一番の原因と考えられるのです。

ファクターX

さて、話は変わって、では日本人のファクターXは『基礎疾患が少ない』ということでしょうか。

糖尿病の罹患率

例えば、糖尿病に関しては、世界平均で罹患率は10%くらいといわれています。日本では、2016年のデータで7.6%*4、アメリカでは11.3%*5、ドイツでは10.2%*6、イギリス 7.3%*7、中国が12.8%*8です。

アメリカ、ドイツなどはかなり高いですが、イギリスと日本は罹患率が同じくらいなんですね。となると、基礎疾患の少なさが日本人のファクターXというのは説得力が足りませんね。

コロナ死者数推移

上図で明らかなように、どの国でもコロナの死者数はワクチンの導入と、オミクロン株への移行の2つで減ったと考えるのが自然です。

日本人含めアジア人は人種的に感染しにくい?という意見もありますが、それは間違いであることは中国が証明していますね。この冬の波で国民の8割が感染*9しました。

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結局は人種差は多少あれど、普通に考えたらくの人が感染対策をしっかりしたから被害が小さかったというのがファクターXでしょうね。

では、また(^^♪