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誰かに話したくなるCOVID-19にまつわる7つの話

(2020/03/15現在)

世界中で広がりを見せる新型コロナウイルス肺炎(COVID-19)ですが、3月11日にWHOはパンデミック*1宣言を行ないました。これまでは地域内でポツポツと局所的に感染者が増えるアウトブレイクという言葉に執着していました。

世界各国のメディアではもっと早い段階からパンデミックという言葉を使用して報道してきましたが、WHOは慎重でした。「中国寄り」の発言が多いとも言われていますがその辺のご判断はお任せします。

(テドロスさんがエチオピアなので中国との関係を考えると……)

 さて、今回はある程度情報がわかってきた今回のコロナウイルスについて「いまわかっていること」を簡単にまとめてみたいと思います。

 

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名称について

今回のコロナウイルス肺炎の名前は決まっています。ウイルスの名前はSARS-CoV-2です。そうなんです2003年に流行したSARSのウイルスとかなり似ていることからその親戚という扱いになったわけです。

そして、このSARS-CoV-2による肺炎にいたった病名をCOVID-19と呼ぶことにしました。2015年にWHOは差別につながるので病名に地域名を入れないということを決めています。武漢肺炎などという名称の使用は控えるようにと提言しています。

日本脳炎 (Japanese encephalitis)、西ナイル熱 (West Nile fever) は昔のことだからいいということでしょうか。(笑)

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手洗いとアルコール消毒

今回のウイルスの名前はSARS-CoV-2でしたね。これはSARSウイルス(SARS-CoV-1)との親戚ということでした。これらをまとめてSARS関連コロナウイルス(SARSr-CoV)と呼ばれています。

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SARS-CoV-2のモデル

上の写真を見て説明しますね。ウイルス成分(virion)は灰色の膜で包まれています。この膜は「エンベロープ」と呼ばれます。このようなエンベロープをもつウイルスはコロナウイルスや、インフルエンザウイルスなどがあります。(下図参照)

エンベロープを持つウイルスは普段エンベロープに包まれているので自分自身はしぶとくありません。つまりエンベロープさえ破壊すれば何もできなくなるのです。

エンベロープ自体は脂肪やタンパクでできているので壊すのは簡単です。アルコール石けんの手洗いでも破壊できます。なので、インフルエンザやコロナウイルスでは手洗いやアルコール消毒が重要となります。

逆にエンベロープをもたないウイルスは本体が結構しぶといんです。アルコールでも胃酸でも殺せません。例で言えばノロウイルスやアデノウイルスとかですね。

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スパイクと高血圧

先ほどのモデルを見ていただくと赤いトゲトゲがありますね。これをスパイクといいます。このスパイクで肺などにたくさんあるACE2受容体というところにひっつきます。このACE(エース)というのは酵素で、この酵素によりヒトは血管を締めて血圧を上げます。

なので、高血圧の治療薬でACE阻害薬というものがありまして、このACEという酵素が効かないようにして血圧が上がるのを防ぐワケです。

コロナウイルスがACE2受容体にひっついて何かしらの作用をするかはまだわかっていません。しかし、武漢で死亡した患者の大半が高血圧だったことも報道されているので何かしら関係があるかもしれませんね。

尚、喫煙が肺胞でのACE2受容体を増やすと言われており喫煙者は特に注意が必要です。

ちなみに2015年に韓国でアウトブレイクになったMERSのコロナウイルスはDPP-4受容体というところにひっついていました。この受容体はインスリンの分泌に関連しています。当時の発表で糖尿病の患者が悪くなりやすいこともわかっていました。

 

コロナウイルスは変異しやすい

ウイルスには大きく分けてDNAウイルスRNAウイルスがあります。どちらも遺伝情報なのですが、その形式が違います。よく言われるのがDNAは設計図で、それの一部をコピー(転写)したものがRNAといわれます。

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上図の一番下にDNAを元にタンパクを合成して複製するまでの 簡単な流れが書いてあります。生物の細胞内に侵入したら、DNAから一部情報をコピー(転写という)し、さらにその情報を分解(翻訳という)してタンパクを合成します。こうすることでウイルスを複製することができます。

ところが、インフルエンザウイルスもコロナウイルスもRNAウイルスです。RNAウイルスはすでに転写のあとの2段階目から開始するので、複製までが早いのです!ところが、完全な設計図であるDNAを持っていないため複製したときの再現率が劣るわけです。これが変異しやすい原因です。

インフルエンザは毎年マイナーチェンジを繰り返しています。だから、私たちは毎年インフルエンザにかかりますね。そしてときどきフルモデルチェンジをするわけです。それが新型インフルエンザ(豚インフルエンザや鳥インフルエンザ)なわけです。

実はSARSやMERS以降、コロナウイルスのフルモデルチェンジもいずれ来ると警戒されていたのですが、それが今回起こったというわけです。

 

PCR検査って?

コロナウイルスはインフルエンザの迅速検査のようなキットがいまはありません。診断するには最近話題のPCR検査を行ないます。コロナウイルスの場合は一本鎖RNAなので正確にはRT-PCR検査と言います。

PCRとはpolymerase chain reactionの略でポリメラーゼ連鎖反応と訳されています。ものすごく簡単に説明すると急に温度を高温にしたり低温したりを繰り返して遺伝子を増やすということです。これで増えてくれば陽性と判断されます。すべての工程でだいたい6時間ほどかかるそうです。

ただし、この検査は偽陰性偽陽性が結構あるようです。数字はさだかではありませんが、100%の結果ではありません。

3月6日から保険診療での検査が可能になりましたが、検査ができるのは全国で800カ所ほどの「帰国者・接触者外来」に限られます。

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PCR検査

韓国ではPCR検査が多い

韓国は早くからRT-PCR検査を大量に行っていました。これを見た日本人の多くは「なんで日本はやらないねん?」「オリンピックの為に感染者数を少なくしたいからだ」などと言われていました。

まず、韓国は2015年のMERSのときにその体制を整えたこともあり、スタートが早かったです。後は、韓国政府は早々に「終息宣言」を発表しようと準備していたところで大邱(대구、テグ)での集団感染が出てきたので、国内へのアピールの意味もあるでしょう。現に今の文在寅政権の支持率はこの騒動以降上がっています。また、韓国ではドライブスルー方式や兵役代わりの公衆保険医を使って選別診療所を用いて、効率よく検査数を増やせています。

ただ、みんながみんな検査をしていたら・・・医療崩壊になります。イタリアでも検査に躍起になりすぎて医療崩壊が起こり、結果死者が増えています。

検査をしまくって陽性と出て入院としていたら病院の数が足りません。医療者側の疲弊と医療者の感染が大きな問題となっています。病院自体が『感染源』ともなりえます。こうなったら入院すべき人も入院できず・・・となります。無症状の人が「検査してくれ」と病院いくのは控えてください。

日本ではこれらの概念から検査はみんながみんな受けるのではなく、医療崩壊とならないように気を付けながら『優先順位』をつけて検査を行っているというのが実情です。

 

ウイルスのタイプは大きく2種類

北京大学解析結果のの発表で大きく2つのタイプがあることがわかっています。L型S型です。3割を占めるS型はコウモリから見つかったものと似ており昔からあったものと考えられています。

コウモリとコロナウイルスはコチラ

www.multilingual-doctor.com

 

一方残り7割がL型と呼ばれコチラがS型から変異したもと考えられています。

日本で最初に感染者が出たときはコウモリから見つかったのと同じS型でした。

 

*1:世界的流行