コロナ禍が始まったころ、日本のようにBCG接種をしている国ではコロナ被害が少なく、接種していない国では被害が多いということがいわれ、BCGが結核だけでなく、新型コロナに対しても防御するのでは?という可能性が言われていました。
今回はこの辺、NEJMで発表されたランダム化試験の結果*1をもとに学びましょう。
BCG
まず、基本の確認をしておきましょう。
BCG(Bacille de Calmette et Guérin)というのは細菌の名前で、日本語ではカルメット・ゲラン桿菌と呼ばれます。一般的には、このBCGを使って作成した結核用のワクチンをBCGと呼んでいますね。
BCGは結核やハンセン病などの予防に有効です*2。
BCGは生ワクチンで、インフルエンザなどの不活化ワクチンと違って、実際の微生物そのものを弱毒化させているので、まれに感染することもあります。一方で、半永久的な効果を得られるというメリットがあります。
また、もう一つ重要なのは細胞性免疫を誘導することができる点です。これは、生ワクチンとmRNAワクチンの特徴です。
そして、この細胞性免疫により、新型コロナに感染しても重症化しにくいんでは?というオフターゲット効果が言われていました。
複数の国の共同研究
今回の論文はオーストラリア、オランダ、など複数の国での共同研究です。
時期としては2020年3月~2021年8月に行われ、コロナ発症や重症化などを追いかけました。
医療従事者(平均年齢42歳)を対象に、コンピュータによりランダムに2つのグループに分けられます。
1つのグループはBCG(デンマーク株)、もう1つのグループは生理食塩水(プラセボ)を皮下注射され、自分がどちらを打たれたかは本人も知りません。
とりあえず半年間、両群を比較し有症状のコロナ発症数と重症化症例を比較しました。
半年後・・・
早速結果を見てみましょう。
半年後の段階で、参加者3988人のうち、新型コロナ発症は238人いました。
内訳は、BCG群が132人、プラセボ群が106人でした!
BCG群の方が発症者数が、多かったのです。もう一つの比較、重症例はどうでしょうか?
なんと、重症者数もBCG群の方が多かったのです。先ほどの発症者数と、重症者数を比較すると両群とも約半数が重症だということがわかります。ここも差がないので、BCGによる重症化予防も関係なさそうですね。
ところで、『重症化率高すぎ』なんですが、この研究での『重症』の定義は、しんどすぎて3日以上働けないというのが最低条件とユルめです。
ちなみに入院したのはともに5例ずつで、死亡はプラセボ群で1人いました。
論文の考察
それでは、論文内の考察を見ていきます。
過去にもBCGとコロナ感染、重症化に関する研究報告は多数あり、結果は賛否両論。むしろ、BCG接種群の方が重症化率が高いとする南アフリカの研究*3すらあります。
これらの結果がバラバラとなる理由は、たくさん考えられます。研究デザインの違いや、参加者の年齢層、国のBCG接種率の違い、BCGの型の違いなどが考えられます。
そこで、今回の研究の強みとしては、1国だけでなく複数国で、さらに同じ型のBCGで行ったということがバイアスを減らす意味での強みとなっています。
さいごに
今回の研究での結論は次のようになります。
少なくとも今回使われたデンマーク株のBCGでは、コロナ感染・重症化リスクを下げませんでした。
いずれにしても、この研究の途中からコロナワクチンが開始され、重症化予防の効果がしっかり確認された今となってはBCGを追い続ける理由はなくなりました。
また、何度もお伝えしていますが、コロナワクチン(mRNAワクチン)は初期の2回以上接種で健康な人は重症化予防が比較的長く保たれます。
さらに、今はオミクロン株に変わっているので、若くて健康な人が頻繁に追加接種するメリットは少ないです。(因みに私は3回接種です。)
▼若くて健康→2回接種でも十分▼
では、また(^^♪
*1:https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2212616
*2:ne PE et al. "Issues relating to the use of BCG in immunization programmes." WHO documentation (1999).
*3:Upton CM, van Wijk RC, Mockeliunas L, et al. Safety and efficacy of BCG revaccination in relation to COVID-19 morbidity in healthcare workers: a doubleblind, randomised, controlled, phase 3
trial. EClinicalMedicine 2022;48:101414.