非喫煙者の肺がんが増えており、その原因として、超加工食品やPM2.5などの大気汚染が指摘されていることについては以前ご紹介しました。
▼非喫煙者の肺がん▼
今回は少し変わった切り口で、ヘビースモーカーなのに肺がんにならない人たちについて、学んでみましょう*1。

2ヒット説
まずは一般的に言われていることから確認しておきましょう。
1953年に、アメリカの遺伝学者のクヌードソン氏がある仮説を発表しました。
それが、2ヒット説 (two-hit theory) です。
クヌードソンの仮説では発癌にはDNAに対して複数回の打撃(hit)が必要だと言いました。
人間を含む高等動物は遺伝子をペアで持っています。これを対立遺伝子(アレル)といいます。
で、がんが発生するには、この対立遺伝子の両方が変異or欠失で機能を失う必要があるというのが、2ヒット説です。

わかりやすく言うと、1回目の打撃でがん化しやすい体質となり、2回目の打撃でがん細胞が発生します。
遺伝性のがんの場合は、生まれ持った時点で、遺伝子に何らかの変異があり、既に1つ目の打撃を受けていると考えられます。
だからこそ、遺伝性のがんは発症年齢が若いのです。
この打撃の原因となるものとは、当然生まれ持っての遺伝だったり、感染だったり、あとは環境因子などです。
発がん物質への曝露や、紫外線、感染などにより遺伝子の機能を喪失することです。
つまり、長期の喫煙は1打撃となりますが、これだけではがんにはならないのです。
8割は肺がんならない
世界中で喫煙とがんにかんする研究は腐る程されてきた上で、喫煙本数、喫煙期間などが多いと喉頭がんや肺がんのリスクが上がることは確実です。
国立がん研究センターの研究では、日本人では喫煙習慣がある男性は非喫煙者の4.5倍、女性の場合4.2倍肺がんになりやすい*2としています。

リスクが4倍などと聞くとビビリますが実際どのくらいの喫煙者が肺がんになるのでしょうか?
実は全喫煙者のうち、生涯で肺がんの診断を受けるのは20%ほどと言われており、8割の喫煙者は肺がんにならないのです。
理由の一つは先程紹介した2ヒット論です。喫煙だけでは1ヒットです。
しかし、これだけなのでしょうか?科学者らはこう考えました。
「もしかして、この人らは、喫煙しても遺伝子を傷つけない何かがあるのかも?」
喫煙は肺がんを起こす
実は喫煙者が肺がんになりやすいことはわかっていたのですが、実際に喫煙が肺がんを引き起こしているという「証拠」はしっかりと掴めていませんでした。
難しい話は抜きにして、とりあえず最新のDNAシークエンスの方法(SCMDA)を用いることで、今まででは「本物の変異」か「変異もどき」かを見破れなかったのが、ちゃんと区別できるようになったと。
で、その最新の技術を駆使して、喫煙者と非喫煙者と両方から気管支上皮細胞を採取してきて調べましたとな。
この気管支上皮細胞というのは加齢や喫煙で変異が蓄積する場所で、特に喫煙と関連しやすい扁平上皮癌が発生する場所ですな。

すると、喫煙者のグループでは、非喫煙者のグループと比べて変異の数がとんでもなく多かったと。
つまり、喫煙は気管支上皮細胞の変異を加速することで、肺がんの原因となっていることが改めて確認された形ですね。
これは今までの疫学的知見と合致しています。
喫煙量について
1日の喫煙本数や喫煙年数が増えると、それと比例して肺がんのリスクが上がっていくことは広く知られています。
しかし、今回の研究で面白い事実がわかったのです。
パック・イヤー(1日喫煙箱数✕喫煙年数)が世界的に主流ですが、日本ではブリンクマン指数(1日喫煙本数✕喫煙年数)をよく使います。

そのため今回は、日本人になじみの深いブリンクマン指数に置き換えて説明とします。
一般的に、ブリンクマン指数が400を超えるとこから肺がんのリスクが高まることが知られています。
さて、今回の研究では、ブリンクマン指数が増えるとともに、肺の細胞内の変異の数は増えていきましたが、460を超えたとこからは変異数は頭打ちで横ばいになっていたのです。

つまり1日1箱(20本)を20年吸った人と、1日2箱(40本)を30年吸った人で、気管支上皮細胞の変異の数は変わらないということです。
研究者らの予想では、変異の蓄積の上限に達したのだろうと。
また、DNA修復メカニズムや解毒システムが働き、変異にブレーキをかけているのかもしれないと言います。
肺がんにならない人
喫煙者は肺がんになりやすいですが、その8割は肺がんになりません。
この謎を解くカギは、先程触れたDNA修復メカニズムにあるのかもしれません。
今後の展望として、この肺がんにならない8割の喫煙者に備わるDNA修復メカニズムが解明されれば、「この人は修復メカニズムが働きにくい」という2割の人たちを発見し、肺がんの高リスク群として介入し肺がんの早期発見ができるようになるといいます。
逆にそのメカニズムがしっかり働く8割の人には、簡素な介入に留めることで医療費の抑制にもつながります。
さらに言えば、DNA修復メカニズムがしっかり働いている人の遺伝子などから、肺がんの”予防薬”も作れるかもしれないと研究者らは考えています。
不治の病→治療できる病→→予防できる病へ
これがこの研究の最終目標です。
では、また\(^o^)/