結婚した夫婦の呼び方で「奥さん」と「旦那さん」というものがあります。
昔、身分の高い人の妻は、家の"奥"の方に住んでいたことから、敬意をこめて”奥様”と呼ばれるようになりました。
では、旦那の方はどうでしょうか??
今回は、こんなたわいもない話から進めていきましょう♪
旦那とは
旦那は、檀那とも書かれます。実はこれは元々は梵語で、仏教に関連します。
特定の寺社の檀家になり、お布施で寺社を支援してくれる人、”ドナー”と同じ語源です。音も似てますね。
元々、古代インドの僧侶は生活の全てを修行に捧げるものでした。
しかし、それでは食べ物に困ったり、物を買うこともできません。一般の人たちは、自分たちの代わりに修行をし、お祈りをしてくれる僧侶への感謝の気持ちとして『施し』をするのが風習でした。
この施しこそが、『檀那(ダーナ)』つまり"お布施"のことです。
日本に仏教が伝わると、この檀那も広まります。
要は、一家の長がお寺に檀那するので、『檀那さん』と呼ばれるようになりました。
寺請制度
時は流れ、江戸時代、幕府はキリシタンを弾圧するために寺請制度を始めました。
要は、「私はキリシタンではありません」という証拠の為に、すべての家庭をどこかの寺の”檀家”とし、寺に戸籍を管理させたのです。
寺側も、お布施をもらう代わりに、盆や葬式の世話をする義務が生じました。
檀家側にも義務があり、法要の参加や墓参り、寺院の清掃などに参加する必要がありました。お布施に関しては”義務ではない”ですが・・・お察しください(笑)
で、信徒としての義務を果たせないと『除名』され、最下層の”非人”にされたりと・・・そのくらい僧侶に力があったのです。
要は、国はキリシタン排除の為に寺を利用し、国民を管理しようとしました。その制度により、寺は安定したお布施を得られるようになりました。
一方で、檀家というが固定客があるので、布教活動の必要もなく、黙っていても一定収入を得られることから、本来の僧侶の”生涯修行”というものがおろそかになっていきました。
廃仏毀釈
明治維新が起こると、とりあえず『江戸時代を全否定』したいわけです。
すると、この僧侶の力が強い寺請制度にも批判の矛先が向くわけです。
藩学といって、教育機関がどんどんできていき、さまざまな学問が広がりました。
その中でも国学といって、『古き良き時代の日本を!』という物が台頭しました。そもそも仏教はインドから来た外来で、日本には”神道”というものがあるではないか。
こういった考えが水戸藩などを中心に盛り上がりました。
さらに、明治政府も、寺が力を持ちすぎることに不満を持っており、天皇を中心とした神道の国家を作るために寺から力を奪おうとしました。
これまで1000年近く神仏習合として同じようにされてきましたが、神仏分離令を出し神社を重要視し、寺を切り捨てました。
このような時代で、庶民の間でも”お布施”の負担への不満もあり、寺を破壊したりする運動が自然発生的に広がりました。これが廃仏毀釈です。
葬式仏教
こうして寺請制度は廃止になり、廃仏毀釈で寺の力は一気に弱まりました。
しかし、庶民としては、家族が亡くなったり、お盆があったりすると、やはり僧侶にお世話になる習慣が残っていたのです。そう、お墓が残っているからです。
こうして、葬式やお盆の際にだけ、檀家として僧侶にお世話になりお布施を払う文化が今まで残っています。
このことを”葬式仏教”と呼びます。現代の日本人の宗教観はこれです。
時代は流れ、若者が都会に出ることが多くなると、さらに檀家と寺の関係は希薄化し、農村部などでは檀家が少なく寺を維持できず廃寺となることもしばしばあります。
戒名
檀家が減り、定期的なお布施がなくなると寺はやっていけません。
”葬式仏教”では、葬式や法事でしっかりとお布施を得るのが重要となります。
葬儀では、まずお礼としてお布施が必要で、10~50万円くらいといわれています。
それとは別にあるのが戒名料です。
戒名とは、この世を去って仏門に入り、戒律を守る証として授かる名前です。そもそもは仏の弟子になった人だけが授かるもので、誰も彼もが戒名を授かるのは日本だけです。
これも、江戸時代のキリシタン討伐のための檀家制度の名残です。
イオン様の登場
お布施もそうですし、戒名料も請求されないのでいくらかわかりません。
聞くと「お気持ちですのでお任せします」と。この不透明な価格というのが多くの人にストレスとなっていました。
2010年、天下のイオン様が、長く続くこの”お気持ち”に対する国民のストレスを拭い去るビジネスを開始しました。
それがお坊さん紹介サービスです。そして、その中でお布施の『価格明示』をしたのです。
イオンが紹介したお坊さんではこの価格!っていう明確な表示です。
ポイントは普通戒名ってとこです。戒名にもランクがあって、生前の社会貢献度が高かったり、寺への貢献度が高いとランクが上がります。要はお布施の額。
信士とか信女というのが一番下のランク(普通戒名)で、わかりやすくは戒名は長い方がランクが上になります。で、一番上のランクをつけてもらおうとすれば、100万円以上が”お礼”の目安になります。
そして、もう一つポイントは、戒名は先祖より上のランクにしてはいけないというものです。
つまり、「もったいないから戒名料は1万だけ」とかにして、低いランクになってしまうと、子孫は永久に低いランクになるという呪縛。。。
それでもいいですか?と言われると、「子供には迷惑かけれないし・・・上のランクで!」となるわけですな。
イオンの白旗
寺からすれば、このお布施が重要な収入である以上、高ければ高いほどいいわけです。
イオンのような大手が、今まで明示されていなかった額を明確に書くと相場が下がってしまう可能性が高く、仏教会はお怒りになります。
全仏は「個人のお気持ちを勝手に価格設定するな」と猛抗議しました。
仏教の国、日本で寺院との全面戦争はさすがにイオンとしても気が引けるようで、後にお布施の目安をHPから削除しました。
そういや京都市の財政破綻問題で”古都税”として拝観料に50円税金を上乗せするという話も寺院の猛抗議でなくなりました。その理由は・・・過去記事へ。
▼寺院が反発する観光税▼
その後・・・
全仏との全面戦争を避けたイオン、踏み込んではいけない土壌に足を入れたので、今頃さすがに撤退したかな~と思いきや。
名前は変わっても健在でした。
しかも、『お布施の目安65,000円~』という表記もバッチリあります。
そうです、時は流れ、社会も大きく変わりました。
コロナ禍で、一気に家族葬や直葬など小規模な葬儀が一般化し、葬式仏教の収入はますます厳しくなっています。
▼『家族葬』ブーム▼
こうなったら天下のイオン様のお力をお借りして、紹介してもらうのも悪くなかろう。
価格明示の方が客も集まりやすいというのも事実。
そして『一律〇〇万円』で紹介されても、前述の戒名料のように、ランクを上げるとお布施も上げることは可能。
時代の流れに合わせるのも重要と、仏教会も変わりつつあるのかもしれません。
では、また(^^♪
<参考記事・サイト>
https://diamond.jp/articles/-/9514
https://www.aeonlife.jp/expense/option/buddhistpriest/#example